地球研×九州大ワークショップ「アートとリサーチを横断する表現者たちによる共創の可能性」
会期:2025年7月26日(土) 13:00-18:00
会場:FabCafe Kyoto
〒600-8119 京都府京都市下京区本塩竈町554
参加方法:申し込み不要、参加無料
主催:人間文化研究機構 総合地球環境学研究所
人間文化研究機構 共創先導プロジェクト・共創促進事業
共催:九州大学 芸術工学研究院
企画:澤崎 賢一(アーティスト・映像作家/総合地球環境学研究所 特任助教)
横谷 奈歩(美術家/九州大学芸術工学研究院 助教)
■フライヤーのダウンロード
https://texsite.net/wp/wp-content/uploads/2025/07/flyer.pdf
■概要
本ワークショップでは、アートとリサーチの垣根を越えた創造的な共創の可能性を探ります。異分野の表現者たちによる実践事例の共有を通じて、映像やAIを活用した対話の方法論〈イマジナリー・ダイアローグ〉を取り入れながら、今後の学際的な協働の地平をひらくことを目指します。ここでいう「アートとリサーチを横断する表現者」とは、研究者や科学者と協働しながら表現活動を展開してきたアーティストに加え、アーティストとの共創を通じて、自らも表現的アプローチを実践してきた研究者・実践者を広く含みます。
近年、科学とアートの関係については、アートを単なる「科学の可視化の道具」として用いるのではなく、両者が対等な立場で創造的連携を築くことの重要性が強調されています。地球研主催の「RIHN-KLASICAワークショップ」(2025年2月開催)においても、アートと科学の新たな関係構築が議論され、こうした課題意識は本企画の出発点となっています。
参考リンク:
https://www.chikyu.ac.jp/matsuda.program/RIHN-KLASHICA%20WS.pdf
本ワークショップの発起人である澤崎賢一と横谷奈歩は、それぞれ異分野の研究者との協働を通じて、以下のような実践を行ってきました。
澤崎は、フィールド研究者とともにアフリカや東南アジアを旅しながら制作した映画作品『#まなざしのかたち』(監督:澤崎賢一、124分、2016年)や、文化人類学者および日本に暮らす若いムスリムたちと共同で実施した「ヤングムスリムの窓:芸術と学問のクロスワーク」を通して、異なる背景を持つ人々の間において、芸術表現がいかにして対話や理解を促すかを探究してきました。
横谷は、文化人類学者らとともに香川県塩江(しおのえ)の空き家・旧藤川邸を舞台に、そこに残された「もの」「こと」「記憶」を調査し、今はなき人びとの記憶を継承するためのアートプロジェクトを実施。その成果として『アートと人類学の共創――空き家・もの・こと・記憶』(服部志帆+小野環+横谷奈歩 編、水声社、2024年)を出版しました。
さらに、澤崎が人間文化研究機構の人文知コミュニケーターらとともに提唱してきた、映像やAIを活用した〈イマジナリー・ダイアローグ〉という方法論に基づき、本ワークショップの後半では、対話と想像のプロセスそのものを中心に据えた実践を行います。この方法は、近年注目される「マルチモーダル人類学」「科学技術社会論(STS)」「環境人文学」といった学際的な研究潮流とも親和性を持つものです。
【本イベントを通じて目指すこと】
◯アートとリサーチを横断する表現者同士による、異分野的共創の萌芽モデルの創出
◯科学・芸術領域を越境する新たな「問い」や「プロジェクト構想」の可視化
◯社会共創型の学術・文化連携モデルの試行と発展
イベント終了後には、〈イマジナリー・ダイアローグ〉を通じて立ち上がったプロジェクト案、展覧会のアイデア、作品コンセプト、あるいは共通の問題意識などを記録として整理・共有する予定です(方法は現在検討中)。これらの成果物(構想案、キーワード群、ビジュアルメモ等)は、今後の新たな対話と協働の場づくりに活かしていきます。
■プログラム
12:45-13:00 開場
13:00-13:15
趣旨説明/事例紹介
澤崎賢一(アーティスト・映像作家/総合地球環境学研究所)
13:15-15:00 事例紹介
アートとリサーチを横断する表現者が、過去に異分野の専門家と実施してきた協働プロジェクトについてプレゼンテーションを行い、経験から得た視点、葛藤、創造的展開の可能性について議論します。
13:15-13:30 小野 環(美術家/尾道市立大学)
「「複眼鏡」を通して見る世界」
未知の世界を見たいという興味で最初は天文に惹かれた。対象を見ることと触ることを両立すべく望遠鏡の自作を試みるが挫折。美術を専門に定めた時点では画家を志ざし、絵画を制作していくつもりが、ものづくり→空間づくり→場づくりに。いつしかアーティスト・イン・レジデンスや空き家再生活動などの実践に展開し、その現場で様々な専門家との協働が生まれた。今回は高松市塩江町で行った「いにしによる」のプロジェクトに焦点を当ててみる。
13:30-13:45 服部 志帆(文化人類学者・民俗学者/天理大学)
「逸脱と解放―美術家とフィールドをともにする」
フィールドワークは出会いの連続である。人、もの、信仰、伝承などじつにさまざまなものと出会う。フィールドワークは、知性と感性を動員してこれらに対峙する行為でもある。しかし、これらをまとめて論文化する際に、私にはいつもなにか物足りないような、なにか抜け落ちているような感覚があった。そのようななか、美術家とフィールドをともにすることになり、私のなかで充足されるような、かゆいところに手が届くような感覚が生まれた。また同時に、戸惑いや葛藤も芽生えた。発表では、高松市塩江町で美術家や地域の人びとと行ったプロジェクトを取り上げ、私の研究と創作の関係、美術家との共創によって起こった自身や地域の人びとの変化について話したい。
13:45-14:00 横谷 奈歩(美術家/九州大学)
「ものやこと、わたしとあなた、あなたたちとのあいだ」
いつのまにか、異分野の専門家との協働が、私の制作にとってなくてはならないものとなった。お互いの専門のキワを探るような緊張感のある遊び心、時には専門分野の境目が一瞬溶け合うような感覚に襲われ、自身の先入観や思い込みに気づいたり、立ち位置を見直してみたりとエキサイティングなやりとりが続く。そこから再びソロの制作に立ち戻ったり行き来するさまを、数えたら15年ほど続けて来た。今回はその断片をお話ししたい。
14:00-14:15 前川 紘士(美術作家)
「いくつかの交流」
私はこれまで、様々な対象と向き合うことや機会に入り込む中で、その都度の関心やそれらが持つ様々な意味を確かめながら諸活動を継続してきました。今回は、これまでの活動の中からいくつかの協働や交流について、並べて話してみたいと思っています。
14:15-14:30 柳沢 英輔(音文化研究者・フィールド録音作家)
「ソニック・エスノグラフィーの実践」
私はこれまで国内外の様々な場所でフィールド・レコーディングを軸として研究・制作活動を行ってきた。近年は録音メディアを活用して人、モノ、自然の相互的な関係性を理解、考察し、表現しようとするソニック・エスノグラフィーに関する実践的・協働的な研究を進めている。本発表では、近年取り組んできた事例を紹介しながら、その方法と課題、展望などについて考えてみたい。
14:30-14:45 矢野原 佑史(音楽人類学)
「ラポールのその先へ: ヴィンテージ・タイムのフィールドワーク」
フィールドにおいて文化人類学者は、まず調査対象者との信頼関係を構築することで、生き生きとしたデータを得られるようになる。そしてその関係性が、10年、20年という時を経ることでようやく新たな顔をしたデータが見えてくることもある。その段階から拓かれてゆく境地を「ヴィンテージ・タイムのフィールドワーク」と名付けたい。はたして文化人類学者はそこからどこへ向かえるのか。そこからしか生まれ得ないものについて考える。
14:45-15:00 結城 円(写真史家・芸術学者/九州大学)
「異分野・異文化間コラボレーションにおけるキュレーション」
本発表では、博物館での「アート・インターベンション(芸術の介入)」という学際的な展示実践の一例として、2025年5月に九州大学総合研究博物館内で発表者が実施した、オーストリア人アーティストのカリーナ・ニマーファル氏による≪ASYNCHRONOUS OBJECTS(非同時的なモノたち):帝国と環境≫展を取り上げる。特にキュレーションの立場から、異分野および異文化を繋ぐ作業について、「翻訳」という視点から考察する。
15:00-15:15 休憩(席の配置変更)
15:15-18:00 イマジナリー・ダイアローグ
テーマ「アートとリサーチを横断する表現者たちによる共創の可能性」
人間文化研究機構の共同研究プロジェクト「イマジナリー・ダイアローグ:映像・AI・芸術による参加型「問い」創出の学際的実践」(代表者:澤崎)の一環として、事例紹介の後、「もしこれから我々参加メンバーが協働して作品制作/展覧会を行うとしたらどんなプランが考えられるか」を参加者全員でディスカッションします。実際に作品制作や展覧会を実施することが目的ではなく、むしろ実現に向けて急がず、仮想的なアイデアにとどまり続けることで「想像的な可能性の幅」を保つことがねらいです。
18:00 終了
■参加者(発表順)
小野 環(美術家/尾道市立大学 芸術文化学部美術学科 教授)
アートを通じた地域資源の再考・再生を主眼に置き、作品制作をはじめ、アーティスト・イン・レジデンスや空き家再生などのプロジェクトに取り組む。近年の展覧会に「百蝙蝠」(iti SETOUCHI、2025)「いにしによるー断片たちの囁きに、耳をー」(瀬戸内海歴史民俗資料館、2022)、展覧会企画に「未完の和作」(小林和作旧居、2024)、「NEW LANDSKAP シュシ・スライマン展」(尾道市立美術館ほか、2023)などがある。AIR Onomichi代表、NPO法人尾道空き家再生プロジェクト副代表理事。
服部 志帆(文化人類学者・民俗学者/天理大学 准教授)
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、京都大学博士(地域研究)。自然と人間の関わりをテーマとし、カメルーンでは狩猟採集民バカを対象に、日本の屋久島では猟師を対象に研究を行っている。作家活動を行い、都美セレクショングループ展2018「複数形の世界のはじまりに〜At the beginning of plural world」をはじめに企画展で作品を発表している。近年の著書に『霊長類学者川村俊蔵のフィールドノート-1950年代屋久島の猟師と後継者たち』(南方新社,2021年)などがある。
横谷 奈歩(美術家/九州大学芸術工学研究院 助教)
国内外にてフィールドワークをしながら、個人の歴史や物語を元に、作品制作を行う。近年の主な発表と滞在制作に「星劇団再演プロジェクト」 「高橋家にまつわる物語」(広島県尾道市)、「いにしによる – 断片たちの囁きに、耳を−」(高松市塩江町)、「芸術と考古学 - 春休みの遺跡 -」(杉沢遺跡/伊吹山文化資料館、2019)、「アートとサイエンスのあいだ」(イタリア、ブルキナファソほか2012-2015)など。
前川 紘士(美術作家)
1980 年生まれ。2007 年京都市立芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。近年の活動に、「滞留」Gallery PARC、京都(2024)、「前川紘士個展 —多様体のドローイング カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)アーティスト・イン・レジデンス報告展—」大阪大学、大阪(2024)、「ユニバー サル・ミュージアム:さわる!”触”の大博覧会」国立民族学博物館、大阪(2021)、「コミュニケーションの部屋」和歌山 県立近代美術館、和歌山(2021)、「釜ヶ崎の表現と世間をめぐる研究会」釜ヶ崎芸術大学、大阪(2019-)、など。
柳沢 英輔(音文化研究者/フィールド録音作家)
博士(地域研究)。現在、日本学術振興会特別研究員RPD、NTT東日本地域循環型ミライ研究所客員研究員ほか。国内外のレーベルからフィールド録音作品をリリース。主な著書に『ベトナムの大地にゴングが響く』(灯光舎、2019年、第37回田邉尚雄賞)、『フィールド・レコーディング入門―響きのなかで世界と出会う』(フィルムアート社、2022年、第1回音楽本大賞&読者賞)
矢野原 佑史(音楽人類学)
2017年 京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科 博士課程修了。2017年より京都大学アフリカ地域研究資料センター 特任研究員、株式会社BLANXPACE 代表。単著に『カメルーンにおけるヒップホップ・カルチャーの民族誌(京都大学アフリカ研究シリーズ21)』(2018年、松香堂出版)。共著に鈴木裕之・川瀬慈編『アフリカン・ポップス!―文化人類学からみる魅惑の音楽世界―』(2015年、明石書店)。
結城 円(写真史家・芸術学者/九州大学 准教授)
2010 年ドイツ・デュースブルク=エッセン大学芸術・デザイン学科写真史・写真論講座にて博士号取得、2013〜2016年まで同大学講師。2011年から2013年までAlfried Krupp von Bohlen und Halbach財団「写真専門美術館キュレータープログラム」キュレイトリアル・フェローとしてドレスデン国立美術館、ミュンヘン市博物館、フォルクヴァング美術館、ゲティ研究所に勤務。
澤崎 賢一(アーティスト・映像作家/総合地球環境学研究所 特任助教)
京都市立芸術大学大学院 博士(美術)。映像を中心とした現代美術をベースにしながら、新たな芸術文化パラダイム創造のために、積極的に異分野や異文化の人々と共同でプロジェクトを行っている。主なプロジェクトに、「暮らしのモンタージュ」(2018-現在)、「ヤングムスリムの窓」(2022-現在)など。主な展示・作品に、展覧会「語りかける庭」(有斐斎 弘道館、京都、2025)、展覧会「すべてのものとダンスを踊って―共感のエコロジー」(金沢21世紀美術館、2024-25)、映画『#まなざしのかたち』(124分、2021)、劇場公開映画『動いている庭』(85分、2016)など。