全国で熊の出没が相次ぎ、メディアの報道も過熱しています。岩手県内でも最近、北上市の瀬見温泉で清掃員が熊に襲撃され死亡しました。また、花巻市でも笹間保育園に熊が現れるなど、市民の間に不安が広がっています。このイベントページの写真は、大迫町の葡萄農場を歩く熊です。令和のクマ騒動は私たち日本人に何を問うているのでしょうか。
そもそも、なぜツキノワグマを始め、シカ、サル、イノシシなどの野生動物が、日本では勢力を拡大し、人間が暮らす場所に多く現れるようになったのか。山林の荒廃、気候変動、餌付けなど様々な要因が複合的に絡んでいますが、根本的な理由は、農村の過疎化と農地の荒廃にあります。
これまで、人間の生活圏と動物の生息圏の間には、農村という緩衝地帯があり、野生動物の侵入を食い止める防波堤の役割を果たしてきました。しかし、農村の過疎高齢化が著しく進行した結果、人の出入りはまばらとなり、空き家が増加、農地は荒れ果て、言わば防波堤が決壊してしまったことから、野生動物の侵入を許すことになってしまったのです。
日本は明治以降、野生動物を奥山に追いやりながら、人間の生活圏を拡大してきました。人口減少社会となり、今度は野生動物に押し返される形となっている訳ですが、どこかで歯止めをかけ、新たな緩衝地帯をつくる必要があります。人間の側がこの緩衝地帯で野生動物を押し返す力を取り戻さないと、最終的には都市も守ることができなくなります。そのためには、衰退の一途にある農村の維持、活性化が不可欠です。そして、ハンターの高齢化、担い手不足も解決していかなければなりません。
農民詩人、宮沢賢治を輩出した花巻も都市化が進み、多くの市民が農村から離れ、市街地や住宅地に住むようになりました。しかし、平野部と山間部はつながっています。ですから、平野部で暮らす市民にとっても、山間部の農村の衰退は他人事ではありません。農村が伝承してきた神楽や獅子踊りも花巻の観光資源です。消滅したら、中心部で行う花巻祭は集客力を失うでしょう。
一方、熊問題は人間が引き起こしたにも関わらず、人間中心の価値観で「害」獣と決めつけ、安易に駆除すればいいという考え方自体も問われています。草食動物の熊は排泄を通じて植物の種子を森に広く散布する生き物です。つまり、熊は豊かな森をつくってくれています。人間は水や空気を生み出す森がなければ生きていくことができません。増えすぎた熊の数を適正に管理するための駆除は不可欠ですが、根本的には人間はいかに野生動物などの自然と向き合っていくのかが問われています。宮沢賢治が童話『なめとこ山の熊』『注文の多い料理店』で何を伝えようとしているのかが。
どうすれば、過疎高齢化に悩む農村を存続していけるのか。どうすれば、人手不足で苦しむ中山間地域の農業を維持していけるのか。ハンターはどうやって増やすのか。電気柵の維持管理は誰がやるのか。野生動物管理普及員などの専門家をどう育てるのか。山林の整備はどうするのか。都市部や平野部で暮らす人間はどのように関わることができるのか。
どうにかしなければいけない問題だらけですが、いずれ農村部だけではなく、花巻市全体(都市部の関係人も)で考えなければならない問題です。行政だけではなく、農家も、ハンターも、会社員も、小さな子どもを持つママさんも、関係人口も、分野も世代もエリアも横断して一緒に考えたいと思います。私たち一人ひとりに何ができるかを。
開催日:11月2日(日)16時半~18時半
会場:小友ビル1F(花巻市大通り1-4-14 ジョーズラウンジ)
司会:高橋博之
主催:葛巻徹と花巻から市民社会を実現する会
参加費:無料